はまはらのフィギュアスケート感想記

フィギュアスケート観戦が趣味です。大好きな選手のこと、観戦の感想などを書いていきます。特に好きなスケーター☆宮原知子さん/町田樹さん/ネイサン・チェン選手/鈴木明子さん/エリザベータ・トゥクタミシェワ選手…他多数

フィギュアスケートに身を捧げ(町田樹ワークショップの感想)

こんにちは。はまはらです。

9月12日、町田くんのワークショップ、『フィギュアスケーターのためのバレエ入門』の配信がスタートしました。
私は当日リアルタイムで配信を見ることはできなかったので、帰宅した9時過ぎから見始めて、日付が変わってしばらくしてから見終えました。
配信の内容は、ミニ講義、バーレッスン、氷上での作品製作の3部構成で、3時間半にも及ぶ超大作。
今回は、そのワークショップの感想をここに書き記したいと思います。

第1部のミニ(と言っても50分あるので中学・高校の1限分はある!)講義では、バレエとフィギュアスケートの関係、フィギュアスケートの歴史、なぜ踊りを学ぶ必要があるのかなどについて、古い文献などを通して丁寧に町田くんが話してくれました。
面白いなと思ったのは、昔はスパイラルの足が高く上がっていなかったという歴史。時代が流れていくにつれて、高い方が美しいとされた、という事実に画面の前で「へえー」と驚いてしまいました。
この講義の中で、思わず一時停止をしてメモを取った町田くんの言葉があります。
「楽曲への理解は、作って演奏した人たちへの敬意」
表現するにおいてなぜ楽曲に対する理解が必要なのか、それは町田くんの考える表現というものが、技術と知的感性の上に成り立つものであるから、という話はこれまでもインタビューや書籍の中で語られてきました。
その裏付けが、町田くんのこれまで発表してきた作品であるのだと思います。
でも、表現のためだけではなく、作曲者や演奏者に対する敬意を表するために楽曲の理解が必要なのだと今回聞いたとき、その言葉にすごく胸を打たれました。
プログラムの製作者としての真摯な姿勢が、町田くんにあそこまで深い理解をもたらしていたのだとあらためて気づかされました。
そして、
「踊る人はその理解の上に想像力を加えて踊ることができる。これこそが実演家の醍醐味」
とも話していました。
作曲者や演奏者が何を思って作り、奏でているのか。そこに想像を働かせ、解釈を加えて演じる。
町田くんがこれまで振付家として、実演家として行ってきたことをこうして言語化されて、「だからこの人のことが好きなんだなあ」としみじみ感じました。

第2部のバーレッスンは、すごく新鮮というか、眼福というか(笑)、良いもの見させてもらってる感がすごかったなあ。
PIWでも活躍中の松村成くん、瀬尾茜さん、現役選手の永井優香ちゃん、ジュニア選手の清野桃葉ちゃんの4人はここから参加。
まず驚いたのは町田くんはもちろんのことですが、優香ちゃんの立ち姿の美しさ! すごくキレイでびっくりしちゃった。
瀬尾さんがバレエ未経験というのは、町田くんも驚いていましたね。以前、PIWの解説のときも瀬尾さんのスパイラルの美しさに言及していましたから。確かに私も意外だなあと思いました。
今回はバレエ入門ということで、立ち方や腕の動かし方など、一つ一つ丁寧に実演してくれています。
この実演している町田くんの動きがマジで美しい! これまで作り上げられてきたあのプログラムの美しい動きは、計算された論理的なバレエの動きから生まれたものだったんだなあ。(バレエ全然わからない人間なので、本当にびっくりしました)
2番ポジションって、町田くんが言ってた通り、本当にイーグルみたいな足の形しているんですね。
しかしまあ、このバーレッスンがワークショップの中で一番長いパートなんですけど、本当にずっと見ていたくなりましたね。
町田くん優しいし美しいし……。とか言いつつ、実は途中で町田くんであることを忘れそうになる瞬間もありました。
バレエの先生に基礎を教わっているような気分になったんですよね。
町田くんってフィギュアスケーターだったんだよなあって、当たり前のことを考えてしまいました。
すごいのは、この10年未満の間に身につけたバレエの知識や経験を、消化(昇華)して自分のものにして、フィギュアスケーターに伝えられるところ。本当に尊敬します。
(ちなみに今回、「一緒にやってみよう」というのもテーマだったのでしょうけど、私はちょっとお酒が入っていたし、夜も更けていたのでひたすら見ているだけでした……笑)
姿勢、首、目線、足の動き、アームスの動きなどなど、いろんな部分に気を配りながらやるって本当にすごいですよね。(私のメモには「みんなすげー」って書いてある)
段々と動きのレベルが上がっているんですけど、さすがスケーターだなあと。
裏打ちの足の動きとか、全然できる気しないな……。(裏打ち激弱リズム音痴吹奏楽部)
そうそう、途中で町田くんが一瞬ストリートダンスというか、ヒップホップの動きを再現してくれたんですが、メチャメチャかっこよかった!!!
基礎できてる人は他のジャンルの動きもすごいんだなあ。もっと見たかったです。
あと感動したのは、バレエレッスンの練習曲に黒い瞳を使ってたこと! うわあああってなりましたよ。うううまた踊ってるとこが見られて幸せ。
フィギュアの着地姿勢につながるバレエの動きは興味深かったですね。
この部分は、どちらかというと技術の話だと思いますが、体幹が鍛えられるのかな。実践して見せてくれた町田くんのポーズ、確かに綺麗でした!
スパイラルを美しく見せる上体の姿勢・形や顎の位置も説得力がすごかったですね。ちょっとした部分に気をつけるだけで、見た目があんなに変わるなんてなあ。
目線の重要さ、指先の繊細な形、腕の動かし方や角度、身体のライン……町田くんの美しい表現がこういう微細な部分にまで気を配り、こだわることで生まれたのだと思うと、彼の努力にひたすら頭が下がります。
しびれたのは、首の動きというか振り返り方だけで、白鳥と黒鳥の「それっぽさ」を表現するところ! キャラクターの作り方、まさに表現メソッドの伝授でしたね。
「すげー!」って言っちゃいましたよ。本当に。
羽ばたきの動きとかもそうですけど、現役時代に白鳥の湖を2シーズン(プロ時代のは王子を演じていたので省略)、火の鳥も2シーズン滑ってきた町田くんのアドバイスは年季と実感がこもっていて、凄まじく納得させられました。

バーレッスンでは、町田くんの隣にいるので、必然的に画面に映りやすかったのが清野桃葉ちゃん。
どんな場面でもすごく真剣で、真面目にひたむきにレッスンに取り組んでいました! 動きもキレイでしたよ。
優香ちゃんも、目線や指の形にこだわりながら動きを美しく優雅に見せていましたね。
松村くんはバーレッスンの途中、バーに掴まってた手を試しに離してみたら、途端にグラっとなっちゃって思わず笑っていたところが面白くて可愛らしかったですね。
瀬尾さんは難しい姿勢をキープしながら、複雑な動きについていっていたのがわかり、初挑戦に見えないなあと感じました。

しかしここまでの表現に対する繊細なこだわりと意識、努力を目の当たりにすると、この先のフィギュアの見方が大きく変わる気がします。
ここまで自分の身体に気を使って表現できているスケーターが、一体どれだけいるのだろう……。
ファンの目が肥えるというか、良い意味で表現において厳しくなれるし、注目すべきポイントがわかるようになったと感じます。
これはもしかしたら、ワークショップを公開している町田くんの、ファンに対する狙いの一つかもしれませんね。

バーレッスンの中で、あっと思ったのは「一筆(ひとふで)」というワード。
動きは流れの中で。滞ると墨溜まりができてしまう、という話を聞きながら、私は町田くんのエデンの東を見ているときの自分の感想を思い出しました。
あの作品を見たとき、どこも途切れるところのない一筆書きの演技のように感じていたんですよね。
なので今回、この言葉が出てきたときにパズルがカチッとハマったような納得感を覚えました。

第3部は、氷上での作品製作。
平常心、平常心……と言い聞かせてもダメでしたねー。氷上に立つ町田くんを見ちゃうとどうしてもグッときてしまう自分がいました。
ドキュメンタリー形式で、ショパンの「別れの曲」を振り付けし、作品として映像に残す。というのが第3部のコンセプト。
4人に振り付けをしていく町田くんの姿は初めて見るもので、バーレッスンとはまた違った新鮮さを感じました。
桃葉ちゃんにアクセルの跳びやすさを考慮して、スピードを出す場所を提案するシーンは、元選手ならではの視点でしたね。
また、桃葉ちゃんが過去、優香ちゃんが未来と呼応するように踊っていく場面は、一人では難しい表現だからこそ良かったと思います。
先に行きたくない、一歩前に進みたい、相反する感情が2人の姿から見て取れました。
近い距離で滑るから傷つけないようにと、町田くんが桃葉ちゃんに滑り方を伝えるところも素敵でしたね。
松村くんの激情のパートでも、町田くんのこだわりが随所に見られました。
頭を抱えるようにする振り付け、演じる側のちょっとした意識の違いで受け取る感情がこうも変わるかと驚きました。
実際に演じたときの松村くんの動きも、痛む心を無理やり押し込めて、苦しむような姿が伝わってきた気がします。
瀬尾さんの武器であるスパイラルを取り入れた振り付けも良かったなあ。あそこは少し、愛の挨拶を思い出しました。
ラストシーンもすごく素敵。唇に手をかざし、苦しかった日々にそっと別れを告げるような最後。
切なくて胸がキュッと痛むけれど、第5パートの町田くんの解釈が私はとても好き。
優しいんですよね。どんなつらいことがあっても、悲しい別れがあっても、それらと向き合い葛藤した日々を包み込んで愛おしむ。「追憶」という言葉をこう分解して、別れの曲を締める町田くんの解釈に優しさを感じて、好きだなあと思いました。
このパートを演じる瀬尾さんの表情がとても素敵で魅力的でしたね。
1時間ちょっとで製作したとは思えないほど、それぞれの踊り手の個性と解釈がマッチした良い作品だなあと思いました。
また違った場面で、できることなら衣装や観客がいる舞台で見てみたいな。

そして最後に、町田くんのデモンストレーションの映像が流れました。
終わったあとに、胸がとにかくいっぱいになって、涙がこぼれて、正直今でもどんな言葉をここに残したらいいのかわからないでいます。
指先を真っ赤にしながら、シンプルな黒いシャツで、靄のかかったリンクで踊った別れの曲。
衣装や照明も含めて作品だと、以前から町田くんは話していました。
でも、この映像も町田くんが残した作品のひとつなんじゃないかと思うんです。
楽曲への理解があって想像や解釈があって、持てる技術と体力と情熱を込めた今できる最大限の演技。
たとえ4人が踊りつなぐ作品のためのデモンストレーションだとしても、これだけのものが込められたこの演技を見たら、私はやっぱりこれも町田くんの作品なんだって思いたい。
美しかった。本当に美しくて、素晴らしい作品でした。

このワークショップの公開配信をしていただけたこと、心から幸せに思います。
町田くんを始め、新書館様、出演者の方々、スタッフ含め関わられたすべての皆様にお礼を言いたいです。
本当にありがとうございました。
そして今、何よりも願っているのが、この素敵なワークショップがあと1ヶ月で消えてしまうのではなく、なにかしらの形に残ってほしいということ。
贅沢な望みかもしれませんが、どうか残していただけたら……と思わずにはいられません。

今回配信を見て、町田樹という人はこれまでもこの先もずっとフィギュアスケートに身を捧げ尽くしていくのだろうなあと思いました。
研究対象はアーティスティックスポーツだからもちろん対象はフィギュアだけに限らないのだけど……研究者になって、活動の幅を広げていきながらこうしてさまざまなかたちでフィギュア界に還元していく姿を見ると、「献身」という言葉がよく似合うなあと感じます。
個人的な考えになるけれど、ここでの献身という言葉には犠牲という意味はないと思っていて……きっと町田くんはただひたすらにフィギュアスケートが好きなんだろうなあ。
だから、生涯を通じて学び、研究し、力になりたいと考えているんじゃないかな、と思っています。
そんな姿を見て、これからも応援できるって本当にありがたいことで……なんだかうまくまとまらないし、もう何万回目の感想かわからないけれど、本当に町田樹という人のファンになって良かったなあって、結局私が思うことといえばそればっかりなんですよね。