はまはらのフィギュアスケート感想記

フィギュアスケート観戦が趣味です。大好きな選手のこと、観戦の感想などを書いていきます。特に好きなスケーター☆宮原知子さん/町田樹さん/ネイサン・チェン選手/鈴木明子さん/エリザベータ・トゥクタミシェワ選手…他多数

バレエとフィギュアの夢舞台~Pas de Troisの感想

おひさしぶりです。はまはらです。

今回、東京文化会館で行われた上野の森バレエホリデイ2024のイベントのひとつ、『Pas de Trois バレエとフィギュアに捧げる舞踏組曲』(4/27,4/28)を見に行ってきました!

毎年恒例となった上野水香さんと町田くんのトークショー。昨年の時点で「話すことがなくなってきたから次は一緒に踊るかも……」みたいなお話はされていたんですが、ついに来ましたよ、町田樹が演者として表舞台に上がる日が!

今回は町田くんのバレエの師匠でもある高岸直樹先生も加わり、3人のダンサーがコラボするというなんともスペシャルな舞台!

これを見に行かない手はないってことで、取っちゃいましたチケット!3回分!(笑)

いや、最初は初演だけのつもりだったんだけど、やっぱり貴重な舞台だしってことでその日の夜のチケットも取って、その後追加公演が発表されて悩みに悩んだ結果最後のチケットも取ってしまいました。

まあ、行かなくて後悔することはあっても、行って後悔することは100%ないし!実際に、悔いは全くありません!最高の夢舞台を見せてもらいました。ってことで以下感想です。

 

まず驚いたのが、トークショーだとあまり感じなかったんだけど、小ホールってステージが本当に狭いんですよね。

小規模なイベントとかコンサートで使われることが多いらしく、音響設備は素晴らしいけれどここで踊ることは少ないそうで、水香さんも客席が近いのとステージが狭いのが普段の大ホールの感覚と違って緊張したと仰っていました。

でも、そんな小ホールだからこそ、演者の動きを間近で見ることができたし、臨場感と迫力に満ちた舞台を体感できたのだと思います。

フィギュアスケートの観戦とはまた違う、演者の息遣いやステップの音をリアルに感じることができたのは今までにない体験で、すごく新鮮な気持ちになりました。

 

今回の舞台は三幕構成。

第一幕は”生きる歓び”をテーマに、ショパンの『エオリアンハープ』から。

タイトルにもなっているPas de Trois(パ・ド・トロワ=3人の舞踏)で始まりました。

もうね、目が足りない!3回見ても足りないって思っちゃいました。

まるで川の水が流れていくようなメロディに合わせて、3人の動きも流麗で、軽やかで美しい舞を見ていたと思ったらあっという間に終わってしまっていた感じ。何回でも見たいなあ。

次に、水香さんがトゥシューズからバレエシューズに履き替える演出。水香さんと町田くんのやり取りが少しコミカルな雰囲気で、小芝居が面白かったです。

水香さんの踊る『楽興の時』は、町田くんが引退のときJOで演じたダブル・ビルの1曲目と同じ曲です。

靴を履き替えた水香さんは、細かな音の粒を緻密に拾い上げる町田くんの繊細な振り付けを華やかさとともに可愛らしく、そして美しく踊り上げていて、その世界観に時が経つのを忘れるような感覚になりました。

氷の上じゃないのに氷の粒が舞い上がるのが見えるみたいに、本当にキラキラした音の粒が見える気がしたのが不思議。綺麗だったなあ。

続いて『プレリュード』。高岸先生と町田くんの師弟によるデュエットは、男性同士ながら2人の体格差を存分に生かした作品となっていて凄く面白かったです。

最初の方と最後の方でペアスピンみたく組んで回る感じの振り付けが好き。リフトも組み込まれていてびっくりしたけれど、高岸先生はさすがの安定感で、町田くんも空中姿勢が素晴らしく美しかったです。(町田くん、リフトなんて初めての経験のはずなのに凄い……)

やっぱりこういった技はフィギュアのペアやアイスダンスと似たところがかなりあるのかな。

男性同士の溌剌とした爽やかさと熱さの中に高岸先生の力強さ、町田くんの軽やかさが魅力的に映えていたし、何度も組む姿には確かな絆みたいなものが感じられて胸熱でした。(高岸先生もそういう意図をもって振り付けをされたんじゃないかな……と想像)

美しさの中に強さや情熱があって、どこか似ているけれど確かに違う2人の演者の間で行われる感情の交換みたいなものが動きの中に見て取れて、この2人だからこそ見せられる演技という感じがしてとても見応えがありました!

第一幕はこれで終わりかな、と思いきや町田くんがスイースイーとスケート滑るみたいな動きで出てきて、サッと腕を伸ばしてスクリーンに注目!って感じの動作。そんでまた滑るフリしながら出ていくもんだから、おもしろ可愛くてちょっと笑っちゃった。

スクリーンに映し出されたのは町田くんのエチュードプロジェクトより『チャーリーに捧ぐ』。

もともとプログラムには掲載されていなかった特別追加上映作品。これは嬉しいサプライズでしたね!

こうしてバレエ作品のあとにフィギュアスケートの作品を続けて見るのも新鮮というか、あまりない機会なので、より両者の違いが浮き彫りになる感じで面白いなと思いました。

町田くんの体の使い方は氷の上でもバレエの動き(アームスの動き・柔らかさ・姿勢・見せる角度とか)が生かされているのがわかるけど、ロングトーンの口笛に乗せて氷上をスーッと滑っていく姿は、当たり前だけどバレエにはないもの。滑りながら衣装がはためくのを見て、あらためてスピード感の違いも感じます。あとは、技の中でもスパイラルはやっぱりフィギュア特有のものって感じで好きです。

生きる歓びをテーマにしたこの第一幕の終わりに、『チャーリーに捧ぐ』を組み込んでくれたのがなんだか無性に嬉しいなと思いました。

この作品って町田くんもYouTubeで解説している通り、スヌーピーに出てくるペパーミント・パティが滑ったものがモチーフになっていて、彼女や作者自身のフィギュアスケートへの愛が伝わってくるエピソードだし、そんなエピソードから新たに作品を生み出す町田くん自身もフィギュアスケートを心から愛していることがよくわかる。

町田くんはバレエをライフワークと言っていたことから、人前で披露するしないにかかわらず、きっと生涯続けていきたいと思っているだろうけれど、引退したフィギュアスケートのことも変わらず愛していて、その2つの芸術が町田くんの生きる歓びにつながっているのかな、なんて思うと嬉しくてたまらないんですよね。

 

続いて第二幕。テーマは”フレデリク”。その名の通りショパンの3曲を通して、彼の心情や内面の変化を追っていくような流れになっていました。

まずは『別れの曲』。これはもともと町田くんが、フィギュアスケーターのためのバレエ入門という講座で4人のスケーターのために振り付けた作品。

それを町田くんが自分で演じたものが収録されて、DVDの特典になっていたんですよね。

あらためて大きい映像画面で別れの曲を見て、やっぱりこの作品の持つ胸を締め付けるような切なさとか寂しさの表現が好きだなあと思いました。

手を伸ばしても、どれだけ欲しても、もう届かない人への想いが苦しいほど伝わってくる。どうしようもないほどの悲しみを越えたその先で、いなくなった人を思い出す行為からは、その人への温かな愛情が可視化されていく。そっとキスを贈るようなラストが本当に切ないけれど、愛に溢れていて大好き。

町田くんの提示した"追憶"という言葉、そして作り上げられた作品の中に込められた沢山のメッセージが愛おしくなる作品です。

秀逸だなと感じたのがこのあとの『ノクターン(72-1)』への繋ぎ方。まるで別れの曲を演じていたスケーターの町田くんがそのままスクリーンから抜け出してきたみたいに同じ衣装で登場し、花束を捧げる演出から始まります。

とはいえ、別れの曲で追憶までたどり着いた主人公(フレデリク)が、ノクターンで再び悲しみの底へ落ちる……というのも救いがないような気もするし、作曲の年代から考えてもノクターンは過去(つまり別れの曲の追憶の境地へ至る前の物語)の回想なんじゃないかな、と勝手に想像しました。まさに悲しみと直面したときのことが描かれているというイメージですね。

最初の絶望によろめく姿がとても印象的。音楽と呼応するような高岸先生の力強い振り付けによって、演じる町田くんの激しい悲しみや悼みの感情が伝わってきて、息を飲んで見つめていました。

悲しみを煮詰めて煮詰めて抽出したみたいなノクターンは、演者である町田くんも最後は息を切らしながら演じていたけれど、見ているだけの自分まで終わったあとに凄く汗をかいたのが不思議だったなあ。

最後の最後に何か小さな光を見出すことができたのかもしれないけれど、そんなラスト以上に深いところまで潜っていって戻ってこれなくなるような中盤の絶望感をもっともっと味わいたい……そういう奇妙な気持ちにさせられる作品でした。またいつか見てみたいです。

続いて現れたのはラフな衣装の高岸先生。有名なメロディの『ノクターン(9-2)』は、なんとなく女性ダンサーや女性スケーターが演じる印象がありましたが、町田くんはこの曲に”成熟した男性の内面”を映し出す可能性を感じ、高岸先生へ振り付けたそうです。

そのギャップみたいなものは、穏やかで優しい音楽なのにどこか箍が外れてしまったような恐ろしさを感じさせる振り付けから感じられた気がします。

そして、次第に変化していく音楽に合わせて感情の昂りを視覚化したような町田くんの振り付けを、高岸先生がこちらが気圧されるほどの迫力をもって演じられていて、本当に素晴らしかった。柔らかさと荒々しさが同居しているのに自然で、激しいのに美しくてただただ見惚れました。暖かみのあるオレンジの照明がパッと切り替わるところ、そのまま内面を表しているみたいですごく好きです。
3回見て一番好きだなあと思ったのが高岸先生が踊ったこのノクターンでした。凄く多面的な内面が見えて、基本的には本当にゆったりとしたメロディなのに、感情の移り変わりが繊細に積み重なっていくのがわかって、温かみも悲しみも狂気までも感じられるのが自分にとって凄く興味深い体験でひたすらに見入ってしまいました。

この曲にこういった振り付けを施した町田くんの感性と、それを圧倒的な表現で魅せた高岸先生……本当に凄いという言葉しかないです。

 

第三幕は”献呈”がテーマ。

2015年にプリンスアイスワールドで町田くんが演じた『継ぐ者』(4つの即興曲90-3)が上映されました。

献呈という主題にこれほど相応しいフィギュアスケート作品もなかなかないんじゃないかな。初めて継ぐ者を見たときから、この演技には奉納のような、神様に捧げられるものような神聖さを感じていたので、個人的にすごくしっくりくるセレクトだと感じました。

何か感情を表現しているというよりも、受け継ぐ、次に繋げることの概念がこの作品であるように思っています。だから演じている町田くんの姿も人間ぽさを感じないというか、”無性”の存在みたいに感じているんですよね。

ラストを飾ったのは、水香さん演じる『献呈』。一幕で演じた可愛らしく無邪気さすらも感じられた楽興の時とは打って変わって、感動的なほどに隙のない美が詰め込まれた作品でした。指の先、足先、細やかな動きの全てが完成されていて、まさに芸術作品そのもの。見惚れるとはこのことか、と強く実感。

最初のポーズの美しさ、磨き抜かれた身体と技術の融合が本当に素晴らしくて虜になりました。天から伸びる蜘蛛の糸を掴もうとするけれど掴めない……みたいな振り付けが特に好き。ラストポーズが美しすぎて、そのまま彫刻にしてほしいくらいでした。

 

プログラムに掲載されていたのはここまででしたが、最後の最後に嬉しいサプライズ!

『トロルドハウゲンの婚礼の日』(献呈には作曲したシューマンの奥さんへ、結婚式前日に贈られたという逸話があるそうで、それに合わせた選曲なのかも)の軽やかで華やかなメロディに合わせて、高岸先生と町田くんがステージに登場!と思ったら客席まで降りてきて踊ってくれるという二重のサプライズ!これにはもうビックリ&感激で、最高に幸せな瞬間でした。

2回目のときは踊る町田くんを間近で見て釘付けになったし、3回目のときは高岸先生が目の前に来てくれたのでヒャー眼福ッ!って感じでした!

2人がステージに戻ると水香さんも現れて3人で組んでステップを踏むと会場の盛り上がりが最高潮に達して、あの瞬間のすべてが幸せ空間すぎてもうハチャメチャに楽しかったことしか覚えてない!初演直後は語彙が無くなって”BIG LOVE”みたいなことくらいしかつぶやけなかったなあ。(笑)

手拍子をしながら、この愛に溢れた時間が永遠に続けばいいって感覚、PIWで見た町田くんのドンキ3幕目の祝祭空間を思い出さずにはいられなかった……。本当に幸せでした。

3度の公演とも大喝采に包まれて終わって、水香さんも高岸先生も町田くんも、非常に充実した表情をされていました。

なかなか終わらない拍手……初演時は町田くんのプロ引退のときを思い出したなあ。バレエダンサー町田樹の新たな門出でもあるこの瞬間、さいたまスーパーアリーナでの拍手の続きみたいな気がして、ちょっと泣きそうになっちゃった。

 

公演後にはちょっとしたトークの時間もあり、サービス旺盛でありがたかったです。

初演時は、町田くんが大ホールで上演される白鳥の湖の宣伝とアンバサダーとしてPIWの宣伝も忘れず(大ホールまで走って、って言ったあとに横浜まで走って行ってくださいって重ねたの笑った)、心を込めて作ったパンフレットを大切にしてほしいと言いながら落として水香さんに拾ってもらったり、そのついでにグッズの宣伝もするというちゃっかりっぷりが楽しかったです。

2回目の公演時は、高岸先生の舞台で踊ることが自身の生きる歓び、エネルギーに繋がるという素敵なお言葉が印象に残り、見る側の自分にとっては素晴らしい作品や美しい踊りを見ることがまさしく生きる歓びなんだなとあらためて感じました。

ラスト公演時では、水香さんが町田くんに逆質問して、「また次の機会もあればぜひ」という言葉を引き出してくれたのが嬉しかったですね!

そして町田くんが締めの挨拶で、映像、音響、照明等のスタッフの方々へあらためて感謝の言葉を話していて、作品をお客さんに届けるという流れの中に関わっている人は大勢いて、みんなの力が集結して初めて出来ることなのだとあらためて実感しました。

フィギュアスケートの作品を上映する許可をいただけたこと、今回の小ホールで録音ながら素晴らしい音楽を流してもらったこと、そして影までも美しく演出し心に残るライティングで作品を彩られたこと……。演者はもちろんだけれど、本当に色々な人の努力があって貴重な舞台を見させてもらえた幸せを、今しっかり噛み締めています。

 

こんな素晴らしい舞台、今年限りじゃ本当にもったいないし、もっとたくさんの人に見てもらいたいし、何より自分自身がもっとこの3人のコラボレーションを見たいっていうのが正直な気持ち。だから、ぜひ!またこの夢舞台を実現させてほしいなと心から願っています。

そして、アーカイブ!カメラも入っていましたし、収録はされていると思うので、こちらもぜひ!映像作品として残して、販売していただけたらとても嬉しいです!

どうか、どうかよろしくお願いいたします。

2日間でしたが、3度の公演すべてが心に深く刻まれ、本当に素晴らしく楽しい時間でした。バレエを鑑賞したのは初めての経験でしたが、フィギュアとの違い、それぞれの良さ、面白さを感じることができました。

公演に関わってくださった方々、演者の皆様にあらためてお礼を申し上げます。

ありがとうございました!次回もあったら、絶対にまた行きます!!!