はまはらのフィギュアスケート感想記

フィギュアスケート観戦が趣味です。大好きな選手のこと、観戦の感想などを書いていきます。特に好きなスケーター☆宮原知子さん/町田樹さん/ネイサン・チェン選手/鈴木明子さん/エリザベータ・トゥクタミシェワ選手…他多数

君の行く道は(町田樹・プロ編)

こんにちは。はまはらです。

今回は、競技人生を終えた町田くんのその後、プロ編について語っていきたいと思います!
前回の選手編の記事はこちら。
hamahara3.hatenablog.com

2015年、引退からしばらくして町田くんはプリンスアイスワールド横浜公演に出演が決まりました。
引退時の挨拶の内容から、いずれショーに出るだろうとは思っていたものの、直近のPIWとは思わず驚きと喜びで胸がいっぱいになったのを覚えています。
驚きと言えば4月1日に公式サイトがオープンしたのにもビックリさせられましたね!
シニアデビューからのプログラムアーカイブがあって、綺麗な写真も見られてうれしかったなあ。
ここでスタンド花やプレゼント、お手紙等は受け取らず、お心だけ頂きます宣言もありましたね。
自分が知る限り前代未聞だったけど、なんとなく町田くんらしいなあと思いました。
もちろん、もうファンレターを出せないのは残念だと思いましたが、ホームページの文章がとても誠実だったので普通に受け入れられました。
ちなみに、町田くんには2014年のカーニバルオンアイスで一度だけお手紙を書いたことがあります。
その頃はちょうど自分の転職が決まった時期で、町田くんの演技に力をもらった、みたいなことをつらつらと書いたような気が……。(笑)
自分にとって町田くんは同年代のヒーローというか、尊敬する人なので手紙を出すのも恐れ多かったんですが……今思い出すと恥ずかしいですね!

さて、やってきた初公演の日、多くの注目を集める中PIWで町田くんが見せたのは、無編集の曲による約6分のプログラム『継ぐ者』でした。
https://youtu.be/aN-6ZWqGJUU
私は初日の午後公演に行きました 。
午前中ネット断ちができず、気になってツイッターを見てしまったので演目は知っていましたが、それでも会場での緊張感は半端じゃありませんでした。
空気がピンと張り詰めて、呼吸をするのもはばかられるような感じ。
町田くんの一挙手一投足から目が離せず……でも気づいたら演技が終わっていました。
引退後初めての演技だったので正直出てきた姿を見たときには泣きそうになりましたが、すぐに惹き込まれてしまって泣くどころじゃなかったですね。(笑)
新鮮だったのは、プログラムに独自のタイトルをつけたこと。
今でこそ慣れはしましたが、当時は初めての試みということもあり、すごく斬新に感じました。
「継ぐ者」というタイトルをつけた意味というか解説は、町田くんのサイトに掲載されている通りだと思いますが、私自身はこのとき、なんというか良い意味で温度を感じない演技だなあと感じたんですよね。人間っぽくないというか。
静かなピアノの音色に合わせて滑る姿は、少しこれまでの町田くんとは違っているように思えて。感情の名前を当てはめる演技じゃなくて、概念的なものに感じられたんですよね。
神様に捧げられる演技のように神聖で、ただただ美しい。
でも継ぐ者というテーマは、演技からすごく理解できるんです。
差し出される手、受け取る手、というのがこの作品のポイントのように感じていて、それは振り付けの随所に見られるんですよね。ラストのポーズもそう。
だから、「誰か」を演じているというよりは、「継ぐ」ということの流れのようなものを表してるように思っています。
うーん……うまく言えないなあ。決して無機質ではないんですよね。脈々と受け継がれるものの美しさや尊さが伝わってくる感じ。
衣装も良いですよね。膨らんだ袖の部分が作品に柔らかい印象を与えていると思います。シルエットがすごく綺麗。

継ぐ者はドリームオンアイスやカーニバルオンアイスでも演じられましたね。
私はPIW東京公演のときのが1番好きで、動画のものもちょうど見に行けたお気に入りの演技でした。
2015年は4月末から10月初旬まで、この作品1本を大切に滑っていましたね。
だから私も、これから毎年1本ずつ作品を披露していく感じになるのかな、なんて思っていました。

2016年もPIWへの出演が決まりましたが、確か最初はゴールデンウィークからの予定が、急遽初回からの出演に変わったんですよね。
そのため、慌てて初日の1回目公演のチケットを取りました。
その年のPIWのテーマはJPOPで、よく知った曲とともに展開されていくショーがとても楽しかったです。
そんな中、いよいよ町田くんの出番!
今回はどんな演技なんだろう……胸を高鳴らせているとき、なんだか聞いたことのあるようなイントロ……。あれ、この曲なんだっけ。知ってる気がする……。そう思ったときに、甘い歌声。
(あっ!! これ聖子ちゃん!?)
たぶん会場にいたお客さんの心がシンクロしたと思います。(笑)
なんならイントロの時点で若干ざわついてましたからね。
ということで、ノーカットの『あなたに逢いたくて~Missing You』。
https://youtu.be/PNKziMLUN-g
まぁーーーーエッチ!!!!!!
ひどい感想!(笑)
いやでも本当にこの演技見ると思わず赤面しちゃいそうになるんですよね。
すごく生々しくって。それぐらい感情の塊がバシバシぶつかってくる感じ。
どの演技も好きですが、まっさらなリンクに描いていく軌道が最高すぎるのでCaOIのときの動画を貼ってます。
この作品が、町田くん史上一番男性的なものだと思います。これまでの作品って、あまり男性性を強く出してこなかったものが多かったと思うんですよ。
悲恋がテーマでも、白夜行人間性を描いていた気がするし、幻想曲は悲恋そのもの、カサブランカやje te veuxはオシャレで生々しさはなかった。
この作品には明らかに想う相手が存在していて、演者は男性であるということを強く訴えかけてくるんですよね。
そういう意味では、すごく斬新に感じられました。
日本語ボーカルの超有名曲で滑るのも、かなりのチャレンジだったと思います。
しかも曲や歌詞に合わせて演じるんじゃなく、その歌詞に応えるかたちで演じるという新しい挑戦。本当にすごいです。
この作品のポイントは、本人もサイトで解説している通りスピード感。特に2番のサビ部分の長いイナバウアーとイーグルでそれを感じられると思うんですが、ここ最高すぎですよね!
町田くんのイナバウアーってすごく新鮮だったんですけど、めちゃめちゃ美しくてびっくりしちゃった。(雑誌の裏表紙に写真が掲載されたときは、もうグッジョブ!!って感じでした)
切ない表情と美しいポージングと物凄いスピード感が合わさって、極上の演出になってると思います。
最後、氷上に倒れ込んで、そっと膝を抱き寄せる場面なんかもう言葉になんないですよ。
恋の結末は悲しい別れだったはずなのに、ちょっと微笑んでるんですよね。
ハァーーーー天才。

ところで、2016年は初めてジャパンオープンにも登場しました。
といっても競技の方ではなくゲストスケーターの方。
こちらも衝撃の作品でしたね。
Ave Maria
https://youtu.be/zSzLJkXmuxY
奉納する、という言葉が合っているかわかりませんが、継ぐ者同様に神前の演技のような印象を受けました。
トランペットのどこか哀愁のある音色と、真摯で一途な滑りが胸を打ちます。
ラストの祈りのポーズが彫刻のようで美しいですね。
この演技、これはあくまでも予想ですが、物凄いプレッシャーがあったんじゃないかと思うんですよ。
というのもこの音源はトランペット奏者のクリス・ボッティさんのLIVEのときのもので、拍手とか歓声とかが最初から入ってるんですよね。
登場シーンとロングスパイラルの場面がそうかな。
音源の拍手や歓声に合わせて演出するっていうのがそもそもすごい。絶対に失敗できない演技を、たった一度しかない本番でやり遂げる精神力に感服します。
現場にいましたが、実際に町田くんの登場シーンに会場が湧きましたし、ロングスパイラルでは歓声も起こりました。
さいたまスーパーアリーナのあの広いリンクの端から端まで、トランペットのロングトーンに合わせてスパイラルで滑り切る場面、本当に神聖で綺麗だったなあ。
心の中にある澱んだものが全部優しく浄化されていくような、清廉な演技だと思います。

そして2017年、恒例となったPIW出演が決まり、ワクワクしながら初日を迎えました。
町田くんの出番がなかなか来ないまま次々とゲストの演技が終わっていき、まさかのトリで登場!
これって実は凄いことですよね。
町田くん、もちろん競技時代の実績はあるけれど、それ以上に実績のあるゲストも出演する中で、プロの世界でトリに値する演技だと認められたってことだから。
そんな町田くんの演技は無音の中のルッツジャンプで始まりました。
まさか曲ナシ……なんて考えが一瞬頭を過ぎったところで、音楽が鳴り出します。
ドン・キホーテ ガラ 2017:バジルの輝き』
https://youtu.be/9xEEmM_1cVg
この作品、かっこいいですよね! もう純粋に素敵って感じ!
物語に沿って3幕構成になっていて、ちゃんとテーマも決められているから作品にメリハリがあるんですよね。絶対に退屈しない構成。
しょっぱなのルッツは見てる方も緊張するし失敗することもあったけど、決まると本当にかっこいいんですよね! ルッツを跳んだあとビシッと表情を作ってる初期バージョンと、パッと微笑む後期バージョンがありました。(どっちも最高!)
第1幕はアプローチがすごく難しいジャンプの連続。音楽に合わせて立て続けに跳ぶのは大変だったと思いますが、見事に決めていましたね! 腰に手をあてて跳ぶ2回転ループも入っててうれしかったです。あのループジャンプは選手時代にも数回しか跳んでないレアなやつだったし!(笑)
全体的にすごくバレエ的な雰囲気なんだけど、第2幕はイナバウアーとイーグルとか、クライマックスのスパイラルとかジャンプ以外でも要所要所はフィギュアスケートの技で魅せていて、バレエとフィギュアが完璧に融合しているのがわかります。
すごくいい表情で踊っていて、特に幕の前でゆっくり手を広げながら笑う姿が大好き。演技なんだけど、演技じゃないような気がしてくるシーンです。
第3幕は最高に幸せな空間! 町田くんは祝祭空間って言ってましたっけ。手拍子の中で華麗に跳んだり、ステップを踏んだり、ポーズを決めたりする姿は本当に生き生きしてて、幸せそうでした。
町田くんの演技で手拍子をするっていうのも、個人的には初めての体験でしたね。
3幕が始まる前から自然と拍手が始まって、飛び出してくる瞬間を待ってる時間も好きでした。
あの場面、会場が一体化するんですよね!
すごく楽しくてたまらない時間でした。
ラストポーズのやり切った!って感じも良い!
衣装も大好きです。歴代の町田くんの衣装の中で3本の指に入るくらいかも。黒も赤も似合ってるから、雑誌の表紙と裏表紙で両方見られたのはうれしかったなあ。
私はPIWの横浜・東京公演とJOでこの作品を見ました。東京公演のラストだったかなあ。ちょっと時期の記憶が曖昧だけど、すごく素敵な演技で会場もめちゃめちゃ盛り上がって、映像に残してほしかったなあと今でも思い出すことがあります。
日光のときは行けなかったんですよね。日光も素晴らしい演技だったと聞いてるし、いつか映像で見てみたいなあ。
そうそう、引退から2年後にしてようやくインタビューも解禁されたんですよね!
久しぶりに聞いた町田くんの声は会心の演技に弾んでいて、表情からも充実しているのがよくわかりました。すごく嬉しそうな感じだったから、こっちも幸せな気持ちになれたのを覚えています。

そして10月のCaOI。町田くんがこの年に用意していたもう1つの作品は、『白鳥の湖ジークフリートとその運命』でした。
https://youtu.be/JUnkFwldLtU
町田くんの作品の中で、もっとも演劇要素の強いものだと思います。
表情やマイムがこれまで以上に強調されていて、舞台俳優の演技を見ているような気持ちになるんですよね。でも立ち止まっているわけではなくて、それを滑らかなスケーティングの中で魅せてくれる。
ライティングも美しいです。ジークフリートの感情や状況に呼応するように変化して、氷上を舞台化させていました。
町田くんの表現技術は本当にすごいと思います。
この作品であらためて実感させられました。
見どころは挙げればキリがないほどありますが、その中でもやっぱり2幕ラストのツイズルと、3幕クライマックスのステップからルッツまでのシーンが特に印象的です。
両方とも絶望を表す場面だと思うんですけど、微妙に意味合いが違うんですよね。
2幕はもうドン底って感じで、狂ったような高速ツイズル。会場で見たときには震えました。
対して3幕は、絶望の中でもがくステップの繰り返しと、突き落とされてなお希望へ向かっていくルッツジャンプ! この場面は、真っ赤に染められた客席と、ジークフリートの表情、盛り上がっていく音楽、ここしかないところでのルッツ、すべての要素が噛み合って名シーンになっていると思います。すごいですよね、ノールックルッツ。めちゃくちゃかっこよかった……。この場面は特に興奮しました。
この作品はスモークも効果的に使われていましたね。製氷タイムを挟んで2部の頭という順番だったんですが、会場では始まる前からスモークが焚かれていて、「何が始まるんだろう」という雰囲気がありました。
主人公が登場する前の、1幕のピンスポットと音楽だけの場面と、3幕のルッツジャンプの後のステップの場面で焚かれてたのかな。
1幕では舞台が始まるんだという緊張感を煽るのに役立っていましたし、3幕ではジークフリートが1つ大きなものを越えて、上の精神世界へ行ったような神秘的な雰囲気を作り上げる効果があったと思います。
最後の場面では、スポットライトの中、ジークフリートが1枚の羽を掲げます。
登場シーンで見せた悩める王子の姿はもうなくて、堂々と自分の運命に胸を張っているように見える感動的なラストシーンでした。
いやもう、素晴らしい以外に言葉がないですよね。本当に濃密な演劇を鑑賞したような気持ちになって、満足感がすごかったなあ。JOでジャッジをしていた海外の方々もスタオベで称えていて、1回きりの上演なのがもったいなかった!
でもだからこそ貴重で、伝説的な演技になったと思います。

この年に町田くんが演じた2つの作品は、かつて競技時代に演じたものと同じ曲目でもあったんですよね。
白鳥の湖はジュニアの後期に、ドン・キホーテは2011-2012シーズンに。
競技時代の作品も素敵でしたが、プロとして演出を考えて振り付け、自ら演じたものは町田くんの進化の証のようにも感じました。演出家・振付家として、表現者として、大きく成長した姿の証明がこの2つのプログラムだったのだと思います。

そして2018年。町田くんがプロスケーターとなって4年目にPIW横浜で披露したのは、『ボレロ:起源と魔力』でした。
https://youtu.be/DEMw4jJktD8
フクロウの鳴き声、小さなスネアドラムの音、氷を踏みしめて確かめるような動作……一気に作品世界の中に観客を引き込んでいきます。
ちょっとした咳払いや姿勢を正す音でさえ響いてしまいそうな静寂と暗闇の中のコンパルソリー。
慣れてきたのか、次第にさまざまなポーズを決めて走ってみたり跳んでみたりしながら、滑ることにのめり込んでいきます。
立ち止まったときの表情は、恍惚としていて、狂気すら孕んでいるかのよう。
時間も我も忘れて滑ることに没頭し、激しく繰り返しステップを踏んでいると、空がしらじらとしてくる。かまうことなく跳ね回り続けると、やがて足もとの氷がまばゆい陽の光で溶けて砕け、男は氷の上から姿を消し、真っ暗な湖の底に沈む。
見事なシナリオと言うほかありません。
もう会場では物凄いものを見た感が半端じゃなかった! 初めて見たとき弾かれるように客席から立ち上がって、拍手をしながら無意識にすごい、すごいと呟いて、全然知らない隣の人と「すごいですよね」と言い合ってしまったくらい。(本当に語彙がない)
帰り道では、なんというスケーターを好きになってしまったんだろう、とあらためて感じました。どこを探してもきっと他にいないですよね。
何度も何度も会場で見た演技ですが、毎回興奮してしまいます。いろんな角度から見たら、その度に発見がありました。ライトの当たり方の違いで、受ける印象も変わるんですよね。
湖のそばで見ているような気になったり、森の奥からそっと覗き見ている気になったり……。
ラストのバレエジャンプのところは、今までに体験したことがないくらい会場がカッとまぶしくて! 夜が完全に開けきったことが本当にわかるんです。だからそのあとの展開にドキドキする。あの暗転の瞬間、天に伸ばした男の沈んでいく腕の絵なんて、もう芸術ですよね。美しささえ感じる。
この作品が本当に好きでたまりません。
今も見るたびに胸が高鳴るし、熱くなります。

初日の第1回公演、スネアドラムの音を聞いたときに客席はハッとしたような空気になりました。
誰もが知ってる曲。いつかは町田くんにやってほしい、きっとやるだろうと思っていた曲。
でも私は、町田くんがボレロをやるのは、もっと後のことだと思っていました。……正確には「もっと後だといい」と思っていたのかも。
この感覚は数年前に確かに体験したことのあるものでした。恐らく、彼のファンの多くが。

6月15日だったかな。私は仕事中で、たまたまPCでYahoo!JAPANのトップを開いたら、そこに引退のニュースが掲載されていました。
もう固まりますよね。(笑)
声が出なくて、ガクーンとうなだれて、もう周りの目とか気にならないままニュースをクリックして、ああ本当なんだって。
そのあとどんな精神状態で仕事をしたのか全然覚えていないけど、家に帰って深夜になってもあまりうまく頭の中が整理できませんでした。受け止めきれていなかったんですよね。予感はあったはずなのに。現実のこととなるとやっぱり、どうしても。
ショックは大きかったです。プロとして、毎年じゃなくても、この先もずっと何年も何十年も滑り続けてほしいと心から願っていましたから。
毎年毎年、ゴールデンウィークの予定だけは絶対に決まっていて、この先も新横浜に通い続けるものだと勝手に思っていたんです。
でも、プロスケーターを引退するのなら、残り少ない町田くんの演技を1回でも多く目に焼き付けたいと思ったし、最後の作品や彼が氷上に残すものをちゃんと記憶に刻み込みたいと強く思いました。

引退の時期を先に言ってもらえたのは、本当に良かったと思います。
心の準備、というか気持ちを整理することで、あらためてひとつひとつの演技を大切に見ようと思えたから。後悔のないように行動ができた気がします。
現に、PIW東京公演は通いまくりましたね!(笑)
職場から割と近かったこともあり、急遽仕事終わりにも行きました。だから、一番多く生で見られた演技がボレロなんですよね。それだけに思い入れもやっぱりあります。
東京公演最終日は、自分にとってラストボレロだと思って見ました。最後のバレエジャンプのシーン、いつも以上にまぶしく見えて、「あれが町田樹なんだなあ」と実感しました。
氷の上に倒れていた時間はいつもより長かった気がします。拍手の雨の中で彼がいったいどんな思いを巡らせていたのかは、知る由もありません。
町田くんが幕の中へ戻ったとき、裏の方から大きな拍手が聞こえて、キャストのみんなに迎えられたんだろうなあと思うと、どうしても込み上げるものがありましたね。
ショーが終わって退場の場面、最後に愛おしそうに氷を撫でる姿を見て、数年前の長野での姿がフラッシュバックしてしまいました……。あとから知ったことですが、東伏見は町田くんのホームリンクだったんですよね。感謝の気持ちといろんな想いが渦巻いていたんだろうなあ。

東京公演が終わって、なんだかぽっかりと胸に穴が開いたような気分になっていたところで、急遽広島公演のチケットが追加販売されることに。
それまでは遠征なんて考えたこともありませんでしたが、気づけば私の指が勝手にチケットの購入ボタンを押していました。(笑)
かなりギリギリだったと思いますが、無事ガクオンさんでチケットをゲット! その瞬間初の広島弾丸日帰り遠征が決定しました。
そしてあわてて行きの飛行機のチケットも購入。帰りは飛行機がないので新幹線のつもりでしたが、ショーが終わる時間が予想できなかったので当日購入することに。
広島公演の前日は仕事で、公演の翌日も仕事だったので、なんとかその日のうちに帰らなきゃいけなかったんですよね。
今考えるとかなり無茶なスケジュール……。(もちろん同僚には内緒!)
広島自体初めての土地でしたが、町田くんの故郷でラストPIWとなれば、やっぱり行きたいという気持ちが勝りました。
最後だと思うと、どうしても後悔したくない思いが強かったんですよね。
迎えた広島公演は、なんだかあったかい雰囲気でした。
席はいつもよりずっと遠くて小さくしか見えなかったけど、ショーはとても素敵だったし、町田くんの演技も最高でした。
ミスはあったんです。最後のルッツジャンプ
でも、どんな失敗も成功も愛おしかった。すべてが町田樹の一部なんだと自然に思えました。だからジャンプの失敗があっても、町田くんのボレロはそのまま生きてるんですよね。
ドキュメントで「もがきながら作った」と言っていた作品。そんな魂の込められたひとつひとつの演技が、私にとって大切な宝物になりました。
ボレロというかけがえのない作品に出会えたこと、本当に幸せだと思います。

町田くんの最後のプリンスアイスワールド出演ということで、ショーの終わりにセレモニーがありました。花束の贈呈と、町田くんの挨拶。彼にとってこのショーが特別ですごく大切なことは、これまでも伝わってきました。将来、どんなかたちかわからないけれど、町田くんが関わってくれることがあったら本当に素敵だなあ。
そして、町田くんは皆でつくった花道を通って嬉しそうに去っていきました。
そのときのBGMは映画『グレイテストショーマン』より、『From now on』。「これから」という意味の曲です。
未来に向かって新たな道を行く町田くんのための最高の選曲に、胸がいっぱいになりました。

忘れられない夏が終わって、最後の日が少しずつ迫っていく中で、だんだんと覚悟が決まっていくのかな、なんて思っていたけれど、そんなことはありませんでしたね。
2日前くらいになると、寂しさがグワーーッて込み上げてきて、ちょっと苦しかったです。
わかってたことだけど、とにかく悲しくて……。やっぱりフィギュアスケーター町田樹が見られなくなる寂しさは、どうしようもないんだなと感じました。
前日の夜は、朝が来てほしくないなあ、なんて思ってしまったり。
もちろん、見届けたいとか応援したいという気持ちはあったんだけど、気持ちを切り替えるのは難しかったですね。

引退当日の10月6日はすごく良い天気で。もう泣いても笑っても最後だから、見届けに行こうって気持ちで家を出ました。
ジャパンオープンで町田くんが披露した作品は、『ダブル・ビルーそこに音楽がある限り』。
https://youtu.be/LU0QqNLvC70
『楽興の時 第3番』と『愛の挨拶』からなる二本立ての作品。
もう、ずるいですよね!(笑)
愛の挨拶なんか完全に泣かせにきてますよ! あんな幸せそうな顔で滑ってる姿見せられたら、もう見送るしかないじゃないですか。
今日で最後なんだな、って思ったら途中から涙がダバダバ出てきて止まりませんでした。
楽興の時は、これまでの町田くんの作品とは少し違っていて、音の鳴るままに体を動かしているイメージ。
背景にストーリーやプロットをあえて作らず、純粋に音楽を体で表現していました。
ステップやジャンプがすごく綺麗で、姿勢も美しくて、「そうだ、町田くんってこんな選手だった」と、つい競技時代を思い出すような作品です。
最後の細かいターンを何回も入れてからの3T、キュッと腕を組んだ決めポーズの流れが軽やかで、ちょっと可愛らしい感じもあってすごく好き。
この部分の音楽との調和、すごいですよね!
愛の挨拶は、ふんわりと跳ぶ2Aが最高。着氷の音がほとんどしないんですよね。世界一柔らかい2Aかも。バイオリンの優しい音色にピッタリです。
あとはもう、スパイラルから最後までの流れですよね。涙が出るほど美しくて、本当に幸せそうなスケーティング。
決めポーズを取るんじゃなく、スポットライトからそっと去っていくようなラスト……。
泣かせにきてます!(断言)
なんというか、引退の日に見せた一度きりのものなのに、名刺代わりのような作品なんですよね。このダブル・ビルって。
町田樹ってこんなスケーターなんですよ」っていうのを、2つの音楽に乗せて滑る姿から教えてもらった気がします。

そして正真正銘、町田樹最後の作品が、カーニバルオンアイスで見せた『人間の条件』。
https://youtu.be/JwxZUKmbx5g
この作品の感想を言語化するのが、なによりも一番難しいかもしれません。
あまりにも重くて、複雑な作品だから。
ただ、この作品の中心にいるのは町田樹であり、町田樹ではないんだろうと思います。
付けられたタイトルが人間の条件である以上、きっと誰もがこの作品の主人公。
運命に翻弄され、流され、抗い、跳ね返されて、それでも生きていく人間の姿。
ジャンプの失敗を、これほどまでに自然に受け入れられたことはなかったかもしれません。
「完璧じゃない人間」を描く中で、失敗が説得力を増す要素になるなんて思いもしませんでした。
人間の条件とは? と、この作品に問いかけられて、なんだろうと考えます。
生きること? 苦悩すること? 躓いて転んでも立ち上がること? 希望を信じること?
答えなんてないかもしれない。でも、何度もその答えを考えたいと思わされました。
本当に生き物のような作品ですよね。成功も失敗もすべてが表現になる。
最後のルッツジャンプから立ち上がって、激しくステップを踏む場面は涙があふれました。
理由はわからないけれど、そんなふうに失敗しても立ち上がり、また前へ進んでいく姿をこれまでも見てきたからかもしれません。
そして、この作品の主人公は、生きていくなかで最後に確かなものを手にしたのだと思っています。

立ち上がって、腕がちぎれてもいいってくらいたくさん拍手をしました。
どれくらいの間かわかりません。でも、フィナーレの時間がこなければ、もっとずっとそうしていたかった。
アンコールを期待していたわけではないんです。
ただ、この素晴らしい作品と、今日までの町田樹に拍手をしていたかった。

町田くんは最後の挨拶のとき、自分のことを「世界で一番幸せなスケーター」だと言ってくれました。
そんな気持ちでいてもらえたこと、本当にうれしかった。
これまで、どれだけたくさんの感動をもらっただろう。どれだけの幸せを、どれだけの勇気をもらっただろう。
町田樹というフィギュアスケーターに、私は何度も背中を押され、励まされてきました。
彼の作品だけじゃなく、その生き様からも、多くのものを教えてもらった気がします。
同じ時代に生きて、ファンになれたこと、応援できたことを、心から幸せだと思います。
だから、この先町田くんの行く道がどれだけ果てしなく遠いものだとしても、ずっと変わらず応援し続けたいと思うし、夢を叶えてほしいと願っています。
そして、町田くんの実演家としての最後の願い「フィギュアスケートをブームではなく文化に」。
その言葉に、応えるために何ができるか考えたいと思います。
きっとひとりひとりできることはあるんじゃないかな。フィギュアスケートの面白さ、楽しさ、素晴らしさを町田くんが教えてくれたように、自分も言葉で残していきたい。
味わった感動をひとりでも多くの人に伝えていきたいと思います。

2012年からプロ引退までの6年間、間違いなく町田樹のスケートが自分の人生の一部でした。かけがえのない時間、宝物のような作品に本当に感謝しています。
これからも、どれだけ月日が経っても決して色褪せない大切なものを抱えながら、町田くんのファンとして、フィギュアスケートのファンとして、堂々と胸を張れる生き方をしていきたいと思います。
それが、大好きな人への恩返しになると信じて。